クレームの正体
配送で受けるクレームのほとんどは、荷物が届かない、時間が読めない、扱いが雑だと感じた、という不満から来ています。相手が怒っているのは、多くの場合あなた個人にではなく、状況に対してです。
ここを理解しておくと、対応が変わります。あなたが責められているのではなく、目の前にいるのがあなただけだから、あなたに向かっているのです。
初期対応の3原則
反論しない
相手の言い分に事実誤認があっても、その場で訂正しない。まず最後まで聞く。反論は火に油です。
約束しない
「必ず明日届けます」「弁償します」と言わない。あなたに決定権がない事柄を約束すると、後で二重に揉めます。
記録する
日時、場所、内容、相手の言葉。その場でメモを取る。後の説明で、この記録が唯一の材料になります。
この3つだけです。追加のテクニックは要りません。
類型別の初期対応
時間指定に遅れた
最も多いクレームです。言い訳を先に出さないでください。「渋滞で」「荷物が多くて」は、相手にとってはどうでもいい情報です。
まず「お待たせして申し訳ありません」と伝える。そのうえで、相手が今どうしたいのか(今受け取るのか、置いていくのか、日を改めるのか)を確認します。理由の説明は、相手が聞いてきた場合だけで十分です。
インターホンを鳴らしていない、と言われる
鳴らしたつもりでも、聞こえていなかった可能性はあります。「鳴らしました」と言い切ると水掛け論になります。
「ご在宅に気づけず失礼しました」と伝えて終わらせるのが最短です。ここで正しさを争っても、得るものはひとつもありません。ただし、記録には自分が訪問した時刻を残しておきます。
置き配の位置が気に入らない
「こんな所に置くな」「濡れていた」というクレームです。指摘は素直に受け、次回の希望を聞いてメモします。
置き配は指定に従うのが原則です。指定通りに置いた場合でも、まず謝意を示してから「次回はこちらに置きます」と確認する。次回から実行すれば、それ以上こじれません。
態度が悪いと言われる
これは本人に自覚がないことが多い。急いでいる時の早口、荷物を置く時の音、目を合わせない。悪気がなくても、相手にはそう見えます。
「不快な思いをさせて申し訳ありません」とだけ伝えて引きます。弁解すると、態度が悪いという印象を補強します。
駐車の位置
「そこに停めるな」「邪魔だ」という指摘です。これは正当な場合が多いので、すぐに移動してください。議論しないでください。
そのうえで、そのエリアで次回どこに停めるかを考え直します。同じ場所で同じ指摘を繰り返すと、警察を呼ばれることもあります。
荷物の扱いが雑
投げた、積み方が悪くて潰れた、といった指摘です。破損がある場合は、写真を撮って会社へ報告する案件になります。
その場で弁償を約束せず、「確認して会社から連絡させます」と伝えてください。
相手が話し始めたら、遮らずに聞く。そして最初の一言は謝意にする。この2つだけで、大半のクレームは5分以内に終わります。反論から入ると、同じ内容で30分かかります。時間で考えても、謝意から入るほうが圧倒的に効率的です。
会社へつなぐ線引き
自分で対応せず、その場で会社へつなぐべき場面があります。判断に迷わないよう、線を決めておいてください。
- 金銭の要求が出た時。 弁償、返金、慰謝料。金額の話が出たら、その時点であなたの判断範囲を超えています。
- 身の危険を感じた時。 大声で怒鳴られる、体を掴まれる、車を塞がれる。無理に対応せず、その場を離れて連絡してください。安全が最優先です。
- 相手が引かない時。 同じ話が3周したら、それ以上その場で解決することはありません。「会社の担当から連絡させます」で切ります。
- 録画や録音をされている時。 対応は変えず丁寧にしつつ、その旨も含めて会社へ報告してください。
- 法的な主張をされた時。 訴える、警察を呼ぶといった話が出たら、個人で対応する場面ではありません。
理不尽な要求には線を引いていい
はっきり書きます。すべての要求に応じる必要はありません。
業務範囲を超える作業(家の中まで運べ、開梱しろ、設置しろ)、他社の荷物への対応、契約にない時間帯の再配達。これらは、丁寧に断ってよい要求です。
「申し訳ありませんが、そちらは対応できかねます。会社の担当からご説明させてください」で構いません。断ることは、失礼ではありません。無理に引き受けて、できなかった時のほうが問題が大きくなります。
また、業務委託であっても、取引先や受取人からのハラスメント的な言動に耐える義務はありません。フリーランス法では、発注事業者にハラスメントへの相談対応体制の整備が求められています。困った時に相談できる先があるかは、契約時に確認しておく価値があります。
対応が終わったら、その日のうちに会社へ報告してください。相手が納得して終わったように見えても、後から会社に連絡が入ることがあります。あなたから先に報告があるのと、外から知らされるのでは、印象がまったく違います。
クレームを減らす日常の工夫
対応より、そもそも起きないほうがいい。効果が大きい順に挙げます。
- インターホンは2回、間を空けて押す。 手が離せない人がいます。1回で立ち去ると「鳴らしていない」になります。
- 荷物は両手で扱う。 見られている前提で動くだけで、印象がまったく変わります。
- 不在票は丁寧に書く。 走り書きは雑な印象を残します。時刻と連絡方法を読みやすく書いてください。
- 挨拶の声を、自分が思うより少し大きく。 ぼそぼそした挨拶は、無愛想と受け取られます。
どれも数秒の差です。その数秒が、1時間のクレーム対応を防ぎます。